子供の頃、私はシャアになりたかった。
子供の頃のある日、駅の近くで、私は見知らぬ女性に声をかけられた。
「坊ちゃん!カズマ坊ちゃん!」
どうやら私を知っているようだが、私には覚えがない。
それどころか、私は坊ちゃんなどと呼ばれる身分ではなかった。
貧しくはなかったが、決して金持ちというわけでもなかった。
正直言って気持ちの悪い女性ではあるが、なんとなく興味がわいて話を伺うことにした。
その女性の話によると、私の祖父は会社を経営していたらしい。
そして、その共同経営者がZ家だったのですが、株式操作によって会社を乗っ取ったと言うのです。
その話を聞いた私は
「シャアだ!私はシャアになれる!」
凄まじく高揚した私は早速家に帰って、その女性の話を父に話した。
その女性の話は本当だった。
「復讐だ!復讐しよう!」
私はいきりたってまくし立てた。
ところが父はタバコをふかしながら笑った。
「復讐なんかにかまけてるほど、人生は長くないぞ。そんな暇があったら外で遊んでこい」
父はそう言った。
その当時は納得のいかないこともあったが、
今は私は父の言う通りだったと思う。
なぜならば、復讐に明け暮れたシャアは全然幸せではないからだ。
もちろん私に復讐するだけの才覚がなかっただけでもあるが、無駄なことに時間を費やさなくて良かった。
妻と猫のミュウの生活で充分幸せなので、祖父の無念など些細なことなのです。
私にはそんなドラマチックな過去があるというだけで、満足なのだ。
そして、そんな境遇にありながら、拗ねたりひねたりせずに笑っている父は立派だと思う。
そんなこんなで、私はシャアを応援しているのだ。
シャアはもう1人の私なのである。
現実の私は「びんぼっちゃま」だが、
心はシャアなのだ。
だから私はガンダムをシャアの視点から観てしまう。
え?
アムロが勝ったって?
私にはシャアが勝った様にしか見えませんでしたが……。
つづく