第64回目はアラビアのロレンスです。
*以降ネタバレ注意です。
1962年のイギリス映画です。
歴史上の人物で尊敬するのは誰かと聞かれれば、私はトーマス・エドワード・ロレンス、すなわちアラビアのロレンスと答えます。
第一次世界大戦中に彼はたった1人で、アラブの独立を成し遂げた人物です。
もちろんたった1人で、というのは語弊があります。
アラブの独立には多くの協力者と多くの犠牲者が関わっていたからです。
しかし、ロレンスは母国であるイギリスに裏切られ、アラブからも裏切者とされ、孤独な戦いを強いられたのです。
ロレンスに興味を持ったのは、TVドラマのヤングインディジョーンズのおかげです。
その時は名前しか知らない程度でしたが、いくつかの書籍を読み、すっかりロレンスのファンになってしまいました。
もう25年も前なのでほとんど覚えていませんが、当時は中東問題や第一次世界大戦にやたらと詳しくなっていました。
映画はロレンスがアラブに赴任してからダマスカスを攻略し帰国するまでが描かれます。
上映時間は227分とかなり長く、観るには気合いが必要です。
雄大な砂漠の風景が印象的です。
ラクダの軍隊が行進するシーンもほかの映画ではなかなかないと思います。
ロレンスはオスマン帝国と戦うため、アラブのファイサル王子に協力を求めます。
消極的なイギリス軍と違いロレンスは攻勢に出てることを進言し、ファイサル王子の信頼を得ます。
ロレンスはアラブ軍を指揮して、アカバ攻略という功績を挙げアラブの英雄のようになっていきます。
しかし、アラブの独立を勝ち取る目前に来て、ロレンスはイギリスの裏切りを知ります。
アラブにはフサイン・マクマホン協定で独立を約束しておきながら、
一方で、サイクス・ピコ協定というイギリス、フランス、ロシアでアラブを分割支配するという約束もしていました。
明らかに矛盾する2つの協定があり、確実にフサイン・マクマホン協定は破られるだろう。
ロレンスはアラブの発言権を守るためイギリス軍より先にダマスカスを陥落させることを決意します。
しかも、アラブ軍に独立を約束すると嘘をついたままです。
ロレンスは母国イギリスの裏切り行為とはいえ、アラブをだましたことに苦悩します。
私も社長が休日出勤手当を支給するつもりが、さらさら無いことを知りながら、部下を休日に働かせていました。
なんとか、交渉して代休は貰いましたが、割増賃金は支給されませんでした。
ロレンスに比べれば小さい話ですが、ロレンスの気持ちの一千万分の一くらいは解ります。
映画はロレンスがダマスカスを攻略し、まだ英雄としてアラブを去るところまでが描かれています。
しかし、その心の中は裏切りの罪悪感と失望でいっぱいっだったでしょう。
映画のその後、ファイサル王子をイラク国王につけるために母国イギリスで上層部に働きかけます。
ファイサル王子はロレンスを評価しているようですが、アラブ全体ではロレンスをあまり評価してはいないようです。
ロレンスがアラブ人に英雄視されていないと知った時は寂しくなりました。
もちろん、ロレンスはそんなことを望んでいたわけではないでしょうが。
現在の中東における戦争やテロはこの事件を起点として始まったと私は考えています。
部族単位の文化に無理矢理国境を敷いて、西洋的な国家形成を押し付けたために争いが続いているのだと。
それ以前から殖民地の問題はあったとは思いますが、ロレンスがいなければもっと酷いことになっていたかもしれません。
豊かな土地はイギリスやフランスが抑え、アラブには砂漠が与えられた。
裏切り者の名を受けて全てを捨てて戦う男。
アラビアのロレンスを私は尊敬しています。
機会があれば是非観てみて下さい。